散文:雨と珈琲

静かに落ちてくる雨は苦手だ、その静寂が自分の身体・意識・存在それら全てを損なおうと狙い定めているような気分になる。窓を激しく叩く嵐のような雨、出来れば夕暮れが良い、細く斜めに刺す紅い日の光が君の頬を染め、雨粒が雀斑のように君の頬に小さな影をたくさん落とす、そんな情景をガラスケースに詰めてテレビの代わりに部屋に置ければどんなに良いだろう。

君は言うだろう「珈琲を淹れようかしら」と、僕は言うだろう「動かないで、僕がやるから」と、そして僕は君のその刹那な美しさが損なわれないよう慎重に珈琲を薄く淹れる、出来ればクリスタルマウンテンが良い、品性は価値観の一つでしか無いが珈琲にとっては特に重要な要素だ。

季節は初夏、水無月が良い、レコードなんて窓から放り投げたって良い、タツタツとリズミカルに響く雨樋、乾いた土が水を含む甘える子兎に似た匂い、少しの酸味を含む珈琲の香り、少し小首をかしげながらハードカバーのページをめくる君、今この瞬間時が止まるのも悪くない、もし電話のベルが鳴ろうものなら世界は僕の憎悪で煮崩れたシチューみたいになっちゃえばいい。

影はあと一時間もすれば暗闇と同化し存在が損なわれるだろう、その前に少しでも己を見てもらおうとでもするように、雨の強弱に合わせ揺らぎ踊り跳ねる、しかし僕は影には目をくれず、読書の邪魔にならない程度に控えめに静かにでも確かに君を見る、君は何も言わない、僕も何も言わない、言う必要さえも感じない、世界は静寂を失い唯雨音によってのみ存在を許されている、そんな今がとても良い。

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